岩手県の太平洋沿岸に面した、南北に続く三陸海岸エリア。キラキラと輝く太平洋の大海原を身近に感じるなら、海岸沿いを走る列車の旅がおすすめです。トリコロールの車体がかわいらしいローカル線「三陸鉄道リアス線」に乗って、岩手の春の海景色を楽しみましょう。三陸海岸ならではの海の幸や食材を使ったごはん、スイーツのお店にも立ち寄って。三陸鉄道らしいレトロな駅舎や、浄土ヶ浜、北山崎といった沿線の景勝地、朝の連続テレビ小説の舞台になった久慈を訪れれば、岩手でしか体験できない出会いが待っています。
コトコト、トリコロール電車が走る「三陸鉄道リアス線」
トンネルを抜けると車窓に映るのは春の太平洋。車内からの海の絶景や、どこか懐かしい駅の風景を楽しみたい
「さんてつ」の愛称で呼ばれる三陸鉄道リアス線。岩手県南部の盛(さかり)駅から北部の久慈駅をつなぐ全長163キロのローカル線です。車内から眺められるのは、三陸沿岸の雄大な海景色です。
急行のないさんてつは、盛駅から久慈駅まで乗り換え時間も含めると所要時間は5時間30分ほど。電車に揺られながら、のんびりゆっくり三陸の旅を楽しみましょう。中間の宮古駅を挟んで、北エリアと南エリアで景色の雰囲気が変わるのも魅力のひとつ。盛駅から宮古駅の南エリアでは入江や岬が入り組んだリアス海岸を、宮古駅から久慈駅の北エリアでは、山越えのためのトンネルの先に広がるコバルトブルーの海を眺めることができます。
堀内駅から歩いて15分の堀内大橋から大海原を背景に大沢橋梁を走る三陸鉄道を眺められる。近くのレストハウスは人気の撮影スポット
南エリアにある吉浜駅付近の吉浜湾や、北エリアの堀内(ほりない)駅と白井海岸駅間にある大沢橋梁など、海を広く見渡す場所では、日中、列車が数分間停車または徐行。ダイナミックな海景色をゆっくりと眺めることができます。
【恋し浜駅】さんてつ沿線のパワースポット。ホタテの貝殻に願いを託しましょう
ホタテは恋し浜の特産品。貝殻の絵馬には、訪れた人のさまざまな願いが込められている
レトロなムードのさんてつ。南エリアで乗車するなら、盛駅から北へ3つ目の恋し浜駅の駅舎にぜひ立ち寄ってみて。
恋し浜という駅名から恋愛のパワースポットとされ、ホームの待合所には、願いを書き込む絵馬替わりのホタテの貝殻が用意されています。待合所にはたくさんの人の願いが込められたホタテの貝殻がずらり。自由に吊るしていいので、数分間の停車中にホタテに想いを書き込み、願いが叶うことを祈りましょう。
【盛駅】地産地消の本格ハンバーガーを味わって
魚介のうまみを堪能できる「タラフライバーガー」(627円)。ハンバーガーはメニューによりテイクアウトできる(テイクアウト価格は要確認)
さんてつ沿線には、三陸ならではのグルメを味わえるカフェやレストランがいっぱい。
大船渡市の盛駅から歩いて3分。「The Burger Hearts」は、いわて短角牛のパテや大船渡産のタラのフライなど約40種類のバーガーが味わえるお店です。ハンバーガーのメインとなる食材はすべて岩手県産。食材のおいしさを引き立てるソースやバンズもすべて自家製です。
キッチュな雑貨が飾られたレトロアメリカンな店内がかわいらしい
定番人気は「タラフライバーガー」。がぶりと口にすれば、バンズはふんわり、タラのフライはさっくりとした食感。厚みのあるタラはジューシーで、とれたての魚介のうまみを堪能できます。5センチはあろうかという、ホタテの貝柱を丸ごと使ったクリームコロッケをサンドした「恋し浜帆立バーガー」(ホタテの入荷がある時のみ・1023円)もぜひ味わって。
【釜石駅】魚河岸テラスのジェラートスタンドに立ち寄って
ダブル(480円)「甲子柿」と地酒「浜千鳥大吟醸」のジェラート。フレーバーは季節によって入れ替わる
スイーツで三陸の味を味わいたくなったら「魚河岸テラス」に立ち寄ってみて。魚河岸テラスは、盛駅より北に9駅目の釜石駅から徒歩で30分の場所にある、釜石湾を一望する複合施設。三陸の魚介を使ったグルメを味わえる4つの飲食店のほかに、会議室などの貸館スペースや、ジェラートスタンド「魚河岸ジェラート部」があります。
施設内にはほかに「Cafe&Restaurant HAMAYUI」や「ヒカリ食堂」などの飲食店がある
魚河岸ジェラート部のジェラートは、地酒や地ビール「はまゆりエール」など地元の特産品を生かした大人向けのフレーバーが人気。ミルクといった定番のほか、地元醸造所の味噌を使用した味噌おこしや、釜石裏千家推薦の抹茶、地場産のルバーブなど個性的なフレーバーもラインナップします。どれもくちどけがよく、素材のおいしさが口いっぱいに広がるジェラートです。
【宮古駅】景勝地・浄土ヶ浜で海岸をおさんぽ。名物の「瓶ドン」も忘れずに
透明度が高く、穏やかな波が特徴の浄土ヶ浜。二酸化ケイ素を多く含んだ白い岩肌が美しい
盛駅から宮古駅までは2時間30分ほど。宮古駅から岩手県北バスに乗って20分、バス停奥浄土ヶ浜すぐそばに浄土ヶ浜はあります。青い海と白い岩肌、石浜からなる静かな入り江は、その昔から極楽浄土に例えられるほど神秘的な雰囲気。さらさらと鳴る波音とウミネコの声に耳を澄ませて過ごしてみてください。浜辺のそばに建つ「浄土ヶ浜レストハウス」の展望台から海を眺めるのもおすすめです。
宮古市内の10店舗で味わうことができる「瓶ドン」。価格や内容は店舗や季節によって異なる
浄土ヶ浜を訪れたら味わいたい三陸の新しいグルメといえば「瓶ドン」。岩手県沿岸では、ウニを牛乳瓶に詰めて販売するのが一般的ですが、この独特のスタイルにヒントを得て発案された新名物です。
瓶いっぱいに詰められた宝石のような魚介をご飯にかけていただきます。浄土ヶ浜そばの「浄土ヶ浜レストハウス 浜処うみねこ亭」ではマダラやイクラ、メカブの入った瓶ドンを提供しているので、見た目の美しさも楽しみながら味わってみましょう。
【宮古駅】浄土ヶ浜で「さっぱ舟」に乗船。ハイライトは輝く海面が美しい「青の洞窟」へ
さっぱ舟に乗船すれば、神秘的な海の色を目の当たりにできる。クリームソーダ味の「青の洞窟ソフトクリーム」(300円)はブルーが清々しい
浄土ヶ浜では、小さな磯船・さっぱ舟に乗って湾内の名所をめぐってみるのもおすすめです。三陸海岸の漁師が使う磯舟は小型で機動力抜群。岩と岩の間をすり抜けたり、小さな洞窟に入ったりと探検気分で浄土ヶ浜を楽しむことができます。
さっぱ舟の受付は浄土ヶ浜レストハウスから徒歩6分の「浄土ヶ浜マリンハウス」で。電話での事前予約は受け付けていないので、直接申し込みを行いましょう(1500円、所要時間約20分)。
青の洞窟は小さな洞窟。最奥部では潮が吹くこともあり、見ることができた人には幸運が訪れるという噂……記念撮影をするなら、船頭さんにお願いしよう
小船に乗って浄土ヶ浜の奇岩の数々を海から眺めたら、ハイライトの“青の洞窟”八戸穴へ到着。奥行き8メートルほどの洞窟は、入り口が海に浸かっているため、晴れた日、小船でないと侵入できません。奥まで進み、さっぱ船が反転すると……目の前に広がるのは、穴の入り口から差す光を受け海がコバルトブルーに輝く神秘的な光景。吸い込まれそうな美しさに魅了されてしまいます。
宮古駅からはテレビドラマの舞台になった久慈駅をめざしましょう
(左上)小袖海岸は久慈駅からバスで30分ほど(右上)久慈駅ではあまちゃんがお出迎え(左下)小袖海岸そばに北限の海女を紹介する「小袖海女センター」が建つ(右下)ドラマにも登場した白い灯台
せっかくさんてつに乗るのなら、北の終着点の久慈まで出かけてみませんか。
久慈市は、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』のロケ地として有名な街。北限の海女が活躍する「小袖海岸」をはじめ、久慈市内にはロケに使われたスポットが点在します。電車に揺られさんてつの魅力をたっぷり楽しんだら、最後は久慈でドラマゆかりの喫茶店を訪ね、市内の工房で200年以上伝わる工芸品作りに挑戦してみましょう。
【久慈駅】ふわふわたまごサンドのレトロな「喫茶モカ」へ
オーロラソースの酸味がアクセントになったふわふわな「たまごサンド」(400円)
ドラマに登場する喫茶店「リアス」のモデルとなったお店、「喫茶モカ」は久慈駅そばの昭和レトロな雰囲気が心地よい喫茶店です。いただけるのは、店内の雰囲気そのままに懐かしさを感じる喫茶メニュー。マイルドな味わいの「ナポリタン」(600円)や甘みのある厚焼きたまごを挟んだ「たまごサンド」が人気です。サンドイッチはテイクアウトができるので、車内で味わうのもいいですね。
【久慈駅】シンプルなデザインと機能美を兼ね備える「小久慈焼」をおみやげに
小久慈焼は江戸時代後期に誕生。鉄分の少ない久慈の粘土で焼いた器は、清々しい白が特徴的
清々しい白色が食卓に映える「小久慈焼」。今も、久慈の家庭にひとつはあるといわれるほど、暮らしに根付いている焼き物です。小久慈焼の工房では、3000万年前の久慈の粘土を使いひとつひとつ手作りで制作。ギャラリーには器やカップなどが並びます。どれも、毎日使っても飽きが来ない凛とした雰囲気が魅力です。
工房では陶芸体験も実施しています。手びねりかろくろを選べ、オリジナルの茶わんやお皿作りに挑戦できます。体験後の作品は、釉薬をかけ、窯で焼き上げてから自宅まで発送してもらえるので、届くまで1~2か月楽しみに待っていてくださいね。
のんびりゆったりのさんてつに乗って、刻々と変化する美しい景色を眺めてみませんか
(左上)吉里吉里駅は桜の名所(左下)田野畑駅から車で20分の「北山崎」も絶景スポット(右上)盛駅から車で25分「碁石海岸」の穴通磯(右下)田野畑駅から徒歩10分の「ホテル羅賀荘」からの朝焼け
ひと口に“オーシャンビュー”といっても、エリアごとに目にできる景色はさまざま。沿線の絶景をめぐりながら旅するのもいいですね。大船渡市の碁石のような玉砂利が光る「碁石海岸」、田野畑村の断崖絶壁が連なる「鵜ノ巣断崖」や「北山崎」など、荒々しさと海の美しさが同居するのは、春の三陸ならではの眺めです。
沿線はおいしいスポットも多様なので、訪れるたびに違った魅力を満喫することができます。“今”だからこそ体験できる楽しみを、さんてつの旅で見つけてみてくださいね。
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今回ご紹介した内容は、2021年3月15日に発売する「ことりっぷ いわて 盛岡・花巻・三陸海岸」に詳しくご紹介しています。