オランダでは冬になると街のあちこちに、甘く暖かい香りを漂わせるスイーツの屋台が現れます。ついつい食べ歩きをしてしまう一口サイズのパンケーキ、クリスマスのクッキーやチョコレート、大晦日に食べるドーナツなど、オランダの冬スイーツをご紹介します。
目次
- 1. ふわふわ熱々の小さなパンケーキ
- 2. ふんわりと体が温まるスパイスクッキー
- 3. クリスマスのジンジャークッキー
- 4. 贈り物はイニシャル型のチョコレート
- 5. アーモンドペーストのパイ包み
- 6. ずっしり贅沢なクリスマスケーキ
- 7. 大晦日の山盛りドーナツ
- ほっと一息あったかドリンク
1. ふわふわ熱々の小さなパンケーキ
<Photo: Mira Pangkey (CC BY 2.0)>
オランダのスイーツといえば、クレープのように薄く焼いたパンケーキ「パンネンクーケン(pannenkoeken)」が有名ですが、たこ焼きのように丸く焼くパンケーキ「ポッフェルチェス(poffertjes) 」も定番です。
小麦粉とそば粉を混ぜた生地を発酵させ、鋳物の調理器具に流し込み、絶妙なタイミングでひっくり返して片面ずつ焼くため、口当たりが軽く中はふわふわです。焼きたてのポッフェルチェスには粉砂糖がたっぷりかけられます。バターや蜂蜜、ホイップクリームが添えられることもあります。
オランダでは冬になると、街のあちらこちらにポッフェルチェスの屋台が建ちます。甘い香りに惹かれて注文の列に並びながら、生地をくるくるとひっくり返す手さばきに見入るのも楽しみのひとつ。クリスマスマーケットやスケートなどを楽しんだ後には、ついつい屋台に向かってしまいます。
生地を焼く時に「ポッフ」っと空気が抜けることから、ポッフェルチェスという名前になったのだとか。一口サイズの見た目だけではなく、名前の由来まで愛らしいスイーツです。
2. ふんわりと体が温まるスパイスクッキー
「スペキュラース(speculaas)」 はキャラメルの香ばしさのなかに、生姜やシナモン、ナツメグなどのスパイスが香る、オランダ伝統のスパイスクッキーです。
スペキュラースが生まれた17世紀のオランダでは、オランダ東インド会社の香辛料貿易によって豊富なスパイスが流通していました。スペキュラースの生地には、クローブ、アニス、カルダモンなどのスパイスも練りこまれています。
スペキュラースはもともと、聖ニコラス祭(12月6日に祝うオランダのクリスマス)のために焼かれていたクッキーで、シンタクラース(サンタクロースの原形)や侍従のズワルト・ピートといった、クリスマスにちなんだ押し型で作られていました。
私もクリスマスに幾度か、スペキュラースを手作りしたことがあります。オレンジピールを生地に練りこんだり、アイシングをしてみたりと、様々なアレンジを楽しんでみました。現在では季節を問わずスーパーで手軽に購入でき、風車型のスペキュラースはオランダのお土産としても人気です。
3. クリスマスのジンジャークッキー
オランダにはクリスマスが2回やってきます。1回目のクリスマスは12月6日の聖ニコラス祭です。毎年11月中頃、スペインから蒸気船でやってくるシンタクラースがオランダに上陸し、侍従のズワルト・ピートと共に街をパレードします。そのパレードで、子供たちに配られるスイーツが、「クラウドノーテン(kruidnoten)」です。
クラウドノーテンは、生姜やシナモン、コショウ、クローブ、ナツメグなどのスパイスを混ぜて焼いたジンジャークッキーで、ボーロのようなコロコロとした形が特徴です。聖ニコラス前夜祭には、シンタクラースとズワルト・ピートがばらまいたクラウドノーテンを、子供たちが拾い集める風習もあるそうです。なんだか節分の豆まきのようで、親しみを覚えてしまいました。
パティスリーやスーパーにクラウドノーテンが並びはじめると、クリスマスシーズンの到来です。最近では、クラウドノーテンにチョコレートがけしたものや、キャラメル、チーズケーキ、ストロベリーのフレーバーなど、様々なバリエーションが販売されています。
4. 贈り物はイニシャル型のチョコレート
オランダでは聖ニコラス祭に、アルファベット型のチョコレート「ショコラーデレテル(chocoladeletter)」を贈ります。アルファベットは例えば、ピーターに贈るなら「P」というように、相手のファーストネームのイニシャルを選びます。
クラウドノーテンと同じくクリスマスの風物詩で、パティスリーやスーパーには10月中頃から、ぎっしりとショコラーデレテルが並びはじめます。1~2ユーロ(数百円)で買える義理チョコのようなものから、ドライフルーツやナッツ、アラザンをあしらった高級品まで様々な種類があります。
<北ホラント州メーデムブリクのベーカリー博物館に展示されているショコラーデレテルの型>
ショコラーデレテルにまつわる、私の好きな逸話があります。とある頃、「I」のような面積が小さいアルファベットはチョコレートの量が少なくて損をするといって、「M」や「S」ばかりが買われるようになりました。そこで現在は厚さを調節して、どのアルファベットも同じ量のチョコレートで作るようになったのだそうです。商人気質で倹約家のオランダ人らしい、なんとも微笑ましいエピソードです。
5. アーモンドペーストのパイ包み
「ボーテルレテル(boterletter)」は、オランダでクリスマスシーズンに焼かれるスイーツです。棒状にしたアーモンドペーストを、パイ生地で包んで焼きあげます。アルファベット型になったものもあり、ベーカリーやパティスリー、スーパーなどで購入できます。
ボーテルレテルは、好きな分だけ切り分けて、オーブンで温めていただきます。華やかな見た目ではありませんが、冬の寒い日に、ゆっくり温かいスイーツを味わうのは幸せな時間です。アーモンドペーストは日本人の味覚に合わないという方もいらっしゃいますが、私は冬になるとアーモンドペーストの風味が恋しくなります。
6. ずっしり贅沢なクリスマスケーキ
「ケルストストル(kerststol)」は、レーズンやオレンジピール、シナモン、ジンジャーパウダーを練りこんだ生地で、棒状にしたアーモンドペーストを巻いて焼きあげる伝統的なクリスマスケーキです。バターや砂糖、牛乳も使われますが、生地に酵母が入っているので、ケーキというよりも菓子パンに近いかもしれません。
ナッツやクランベリーなどを入れることもあり、焼き上げたケルストストルには真っ白になるまで粉砂糖がまぶされます。日本のクリスマスケーキのように一晩で食べきってしまうのではなく、クリスマスシーズンに少しずつスライスして楽しみます。
厚めにスライスしたケルストストルには、たっぷりバターを塗っていただきます。時間が経つほどにフルーツの風味が生地に移り、奥深い味わいになります。ずっしりと贅沢なケルストストルは、素朴な装いながら、オランダのクリスマスに華を添えるスイーツです。
7. 大晦日の山盛りドーナツ
「オリーボーレン(oliebollen)」は、スプーンですくった生地を揚げ油に落として作る球状のドーナツです。材料は、小麦粉、卵、酵母、塩、牛乳、ベーキングパウダーとシンプルですが、芳ばしい香りとモチモチの食感がやみつきになるスイーツです。
オランダでは10月頃から、街の至るところにオリボーレンの屋台が現れます。レーズン入りのオリボーレンも人気商品で、粉砂糖もかけてもらえます。1つ1ユーロ(約130円)ほどで購入でき、お持ち帰りはもちろん食べ歩きも楽しめます。
<『鍋いっぱいのオリーボーレンを抱えた若い女性』 アルベルト・カイプ, 1652年頃>
オリーボーレンの歴史は古く、1652年頃の絵画にはオリーボーレンを抱えた女性が描かれ、1667年の本には最古のレシピが発見されています。オランダ人は後にオリーボーレンをアメリカに伝え、これがドーナツの起源になりました。
400年の歴史を持つオリーボーレンは、オランダの年越しスイーツでもあります。家族や友人が集まる大晦日のパーティーには必ず、山盛りのオリーボーレンがあります。当日は誰かしら、手作りのオリーボーレンを携えてくるのです。
パーティーではワインやシャンパンを飲みつつ、時折思い出したようにオリーボーレンを頬張りながら年越しを祝います。高カロリーなことは分っていながらも、私は毎年「これで最後」「これで本当に最後!」「あともう1個だけ・・・」と、5個、6個と食べ続けてしまいます。
ほっと一息あったかドリンク
オランダでは冬スイーツの他にも、体がじんわり温まるホットドリンクもあります。「ショコメル(chocomel)」は子供から大人まで皆に愛されるチョコレートドリンクで、冬はホットチョコレートとしていただきます。ミルクココアのような優しい味わいで、カフェではホイップクリームがトッピングされます。
「ビショップワイン(Bisschopswijn)」は、「司教のワイン」という意味で、聖ニコラス祭のシーズンに飲まれるホットワインです。日本ではドイツ語名の「グリューワイン(Glühwein)」 が有名でしょうか。
赤ワインにシナモン、スターアニス、クローブなどのスパイス、オレンジピール、砂糖やハチミツを入れて作る、体の温まるホットカクテルです。私はクリスマスマーケットでビショップワインを飲んでからその美味しさにはまり、自宅でもアレンジを加えながら作るようになりました。
寒い季節にオランダにいらっしゃる方はぜひ、あったかスイーツやホットドリンクで暖をとってみてください。