ニュージーランドで「ハイカントリー(山間の高地)」という言葉を口にするとき、自然への強いロマンが誰しもの心に呼び起こされる、というのは、写真家のアントニア スティーグ女史による写真集の冒頭の言葉です。その広大で伸びやかな、しかも四季による変化のはっきりした、厳しくも美しい景観は言葉には尽くせないほどの眺めです。ニュージーランドを訪ねるなら、是非とも一度は行ってみたい場所、それがハイカントリーです。
さて、ニュージーランド旅行者の大半はバックパッカーと呼ばれる、リュックを背負った人たちで、安価な宿賃のシェアルームに泊まったり、キャンプをしたりで、各地を回っています。そうした旅ももちろん楽しいのですが、大人にはまた別の選択肢も用意されています。
今回は、超豪華なロッジで優雅に過ごしながらハイカントリーの自然を眺めて過ごせる場所と、誰にも見つけられない隠れ家的ハット(山小屋)を独占して、自然に埋もれて過ごせ、かつ、ファームの暮らしも垣間見れるところ、の2箇所をお伝えしましょう。
本来、ハイカントリーで生活している人たちは牧羊、牧牛というものを生業にしている人たちです。その日々の暮らしは厳しい自然に囲まれて便利なものは周囲に一切何もないというもの。都市生活とは切り離された僻地で、ある時は獣医に、ある時は看護師、ある時は電気技術士、そしてある時は屠殺者と、家族だけでなんでもこなさなければなりません。もちろん、私たちにいきなりそんな体験は無理というもの。でも、ただ自然を楽しむだけでなく、彼らのそんな暮らしも垣間見ることができたとしたら、ハイカントリーに出かけて行ってみる価値は十分にあると思います。
目次
リンディス渓谷
私の旅の目的は、アフリリ川沿いのリンディス渓谷を訪ねること。雑誌で見た風景にどうしても立ってみたかったのです。トップの写真はそのリンディス渓谷の眺めです。訪ねた季節は夏ですが、その真夏でも残雪のある山々が意外に低く見えます。が、それらは実は2,000mを超える連峰です。すでにこの渓谷は標高800mほどの高さなのです。中央にゆったりと流れるのが、アフリリ川。この眺めこそが、ハイカントリーです。
まずは超豪華ロッジへ。
でご紹介したグライダー体験できる街、オマラマを走る国道8号線。その8号線を街から南下する方向へ走っていくとアフリリ川沿いにドライブできるところが出て来ますが、川から離れて曲がる直前に、さらに川沿いへ伸びる舗装されていない道があります。しばらく、広々とした眺めを楽しみながらその道を走ると左手に、The Lindis と書かれた錆びた鉄骨(初めから錆を出しているのですが!)の看板が見つかります。その先、右手を見ると、ありました。ロッジのゲートです。
ただ…ゲートだけ、です(笑)。ホテルの建物はどこにも全く見えません。
インターホンがあるので、押してみます。受付の女性の声が聞こえて、オートロックのゲートは開いてくれました。(この自然の中にこのハイテク…)
NZ建築家設計の素晴らしいデザインの、ザ・リンディス
このロッジの建物は、NZで建築賞を受賞した素晴らしいデザインの建物です。ゲートからは全くこの姿が見えませんでしたが、それもそのはず、渓谷の自然の段差に埋もれるように設計されているので建物が見えないのでした。ゲートからアプローチする方向とは反対の川側から観ると、下の写真のように外観がよく分かります。ゆったりと羽を広げた大きな鳥のようでもあります。
内部はご覧の通り、大変にラグジュアリーな造り。冬には床暖房も入れられて、外の厳しい自然の影響を受けずに暖かに、広大な雪景色を堪能できるに違いありません。ここは一度は泊まってみたいところです…
…え? 宿泊していないのかとお尋ねでしょうか…?
はい。見ただけ、です。今の私の予算ではここまではちょっと無理でした(笑)。聞けば、宿泊客は海外からの旅行者ばかりだということ。羨ましい限りです。
The Lindis
- 住所 : 1490 Birchwood Road, Ahuriri Valley 9412
- 営業期間 : 通年(要問合せ)
- 宿泊料 : $4,600から$39,100まで(全食事付き、2泊連泊の室料)
- URL : https://www.thelindisgroup.com/the-lindis
ファームの奥にひっそり隠れたハット(ダンスタン ダウンズ ハイカントリー)
では一体、私は何処に宿泊したのでしょうか… 実は私はこのリンディス渓谷の入り口あたりにある、ダンスタン ダウンズ ハイカントリーという名前のファームに泊めてもらったのでした。私が宿泊したのはファームの家族の家の一部を改修して作られた、バスルーム付きの非常に快適な個室だったのですが、もうその部屋は提供しないことに決められたそうで、残念ながらご紹介できません。でも、私自身がこの次はきっとここにしばらく寝泊まりしてみたいと思った、とびきりの場所がここにはあります。それはファームからは少し離れた、ほとんど誰にも見つけられないような奥まったところにある、小さな真っ赤で可愛いハット(ニュージーランドで山小屋のことをいいます)です。
小川のそばに建っていて、トイレもシャワーも(ついでに露天のバスタブまで)あります。もっとも、ホテルの個室に泊まるほどの快適さはありませんが、本来過酷なハイカントリーでの滞在の風情たっぷり。しかも、困ったらいつでも親切なティムとジバが助けてくれるでしょう。Wi-Fiも入っちゃうんですから、この一見、超アウトドアの自然派風、でありながら、実はお手軽で不自由のないハットとは、大変魅力的だと思われませんか。ここは「ティムのワゴン」と名付けられていて、ご主人のティムさんの手作りの小屋だそうです。よく見ると、そう、ワゴンですね、車輪が着いています!小川では、魚釣りもできるのだそうですよ。
<隠れ家的小さな赤い小屋>
ダンスタン ダウンズ はメリノ羊のファームです。大変に広い敷地で、ファームの歴史は100年以上。ちょうど私が宿泊している間、朝食後に突然ドドドドッと、羊追いが始まり、私は急いで部屋を飛び出て、夢中で後を追いました。あまりに急だったので、せっかくの機会だったところ、何も持って出ず、写真もビデオも撮れませんでしたが…。(涙)このファームでは羊追いを専門の人に依頼していて、彼はあちこちのファームを回って羊を追っているようです。下記のビデオは他の場所での羊追い。リンディス渓谷でこれも偶然出会ったものです。ハイカントリーに滞在するなら、NZの最も有名な牧羊、牧牛の見学もその楽しみの一つといえるでしょう。農場で働く、素朴でたくましくも優しい人たちに会えるのも嬉しいおまけです。
Dunstan Downs High Country Sheep Station
- 住所 : State Highway 8, Omarama 9448, New Zealand
- 営業期間 : 通年(要問合せ)
- 宿泊料 : $55(一人使用一泊)$110(二人使用一泊)
- URL : http://www.dunstandowns.co.nz/
まとめ
私自身は、できることならこんなところで年中暮らしたいと思うほど、ハイカントリーを美しいと思っています。こういう場所に暮らしてこそ、ニュージーランドで暮らす意味があるのではないかと思うのです。でも、はじめに書いたように、悲しいことに私には到底体力がついていかないでしょう。長時間の山歩きもどこまでできるか、自信はありません。でも、こんな素敵な宿泊施設があれば、たとえ高齢になっても、この国の醍醐味を体で感じる時を持つことができるでしょう。ここでご紹介した二つは両極端のかなりユニークな例ですが、これら以外にも、ニュージーランド、特に南島には山間の厳しい自然の中に立つ宿泊施設はたくさんあります。地図を眺めながら地形を想像し、どうぞお気に入りの場所をあなたも見つけてみてください。
(ご注意:The Lindis の見学には事前予約が必要です。)
<近くの牧場には牛も>