2019年末にシドニー方面で過去最大級のブッシュファイヤー(森林火災)が発生し、世界的にもニュースで取り上げられたことを覚えている人は多いのではないでしょうか。オーストラリアでは、規模に大小はあれど毎年どこかで必ずブッシュファイヤーが発生しています。現在(2021年2月6日)は州都パース北西部が燃えています。私のファームは2018年末からブッシュファイヤーによって敷地の3分の2が焼けてしまいました。

目次

ブッシュファイヤーの原因

あれだけ大きな火事を何がもたらすのか不思議に思う人もいるかもしれませんが、それは乾燥と熱と風です。

まず、火が好む状況は乾燥。もちろん場所にもよりますが、オーストラリアは明らかに日本よりは降水量が少なく乾燥しています。

東京の年間降水量が約1,600mmに対し、私の住んでいる西オーストラリア州だと州都パースで約800mm、私のファームエリアだと約550mmで東京の半分以下です。しかも、このエリアだと夏が乾期になるので12月~2月などは月に10mmも降らなかいこともあります。

私の住んでいるエリアは初夏に収穫期を迎える穀倉地帯ですが、夏はどこのファームも収穫後の乾燥した残骸が残っています。まさに、炎の燃料がそこらじゅうにある状態です。

乾季

肝心の火の元ですが、人為的に起こした火が燃え移ることもあれば、落雷またはギラギラの太陽が草木を燃やすこともあります。信じがたいですが、これだけ乾燥しているうえに気温が40度を超える日もあると、風による摩擦で発火することがあるのです。最初の火が小さくても風によって火はどんどん大きくなります。ときに火の粉は風に乗って10kmを移動するとも言われています。

ブッシュファイヤー

そのうえオーストラリアの森林の80%を占めるユーカリの木にも炎を広げる原因があります。アロマ効果のあるユーカリオイルですが、ユーカリの葉にはたくさんの油分があります。ユーカリに火が付くとまさに火に油を注ぐ感じになります。

ブッシュファイヤー

我が家がブッシュファイヤーの被害に!

2018年末には、私たちのファームがブッシュファイヤーの被害に遭ってしまいました。

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我が家から10km離れたところに落ちた雷からの発火でしたが、当時は夫と共に日本へ一時帰国をしておりファームに誰もいない状況の中で起きてしまいました。隣人から連絡を受けて急遽帰るも炎の過ぎたあとでした。

ブッシュファイヤー直後

家や倉庫、家畜に被害はありませんでしたが、800ヘクタールの敷地のうちの600ヘクタールが燃えてしまい、灌漑用のパイプが溶け、多くの木が倒れて道を塞ぎ、そんな倒木や消火活動の車両によってフェンスが破壊されてしまいました。

ブッシュファイヤーによる倒木

炎が通り過ぎたあとも煙が上がっている箇所もあり、再び強い風が吹けばまた火が起こるという繰り返しで完全鎮火を確信できたのはブッシュファイヤー発生から3ヶ月後に降った大雨の後でした。

それまでの3ヶ月間は全くと言っていいほど雨が降らず、毎日のようにファーム内の火を確認しては夫と二人で消火活動を続け、その隙間時間にフェンスを立て直したり、家畜の餌を確保したりと怒涛の毎日でした。

フェンスの修理

このブッシュファイヤーから2年が経ちますが、未だにフェンスや灌漑用のパイプの修復、荒れた地面の整地は終わっていません。

ブッシュファイヤーの消火活動

消火活動というと消防車が炎に水をかけるイメージがあると思いますが、ブッシュファイヤーの場合はちょっと違います。壁もなく広範囲に道なき森林が燃えるブッシュファイヤーでは炎に近づくことさえも難しいので、水だけでなく炎の力を借りて消火活動するのです。

ブッシュファイヤー 消火活動

まず、風向きを読んで次に燃えそうなエリアを予測し、そこから少し先をブルドーザーなどの重機を使って地面を削り、ファイヤーブレイクという防火帯を造り、燃え広がりを防ぎます。

ファイヤーブレイクを作る

次に、ファイヤーブレイクからブッシュファイヤー側の土地を燃やします。炎は燃える物がなければ炎はいずれ鎮火するので、炎が攻めてくる前に先に燃やしてしまう作戦です。この燃やし返しをバックバーンと言い、バックバーンのコントロールに水を使います。

先に燃やす

しかし、途中で風が強くなったり風向きが変わることがあり、そうなればさらに火事が大きくなることがあるので常にリスクが伴います。

私の住んでいるエリアだと町に消防車は1台あるものの消防署はないので、地元の人で結成された消防団が消火活動を行います。ここだとほとんどの人が農家のため一家に一台は重機やファイヤファイターと呼ばれる散水車のようなものを持っているのが基本です。近所で火事発生の連絡を受けると、各自のファイヤファイターを持って消火活動に参加します。

火事の範囲が大きくなると消防車を出動させたり、近隣の町の消防団や最寄り市の消防署からの応援があったりします。私たちのファームを襲ったブッシュファイヤーでは総面積1万ヘクタールを焼いたもので、これには州の消防署も出動し上空からの消火活動も行われました。

消防車

大きな火は1週間ほどで落ち着き応援の消防署も退散しましたが、各地で小さな燻りが残りその対応は各自で対応となるので、我が家のブッシュファイヤーの鎮火には基本的に夫と2人で行い3ヶ月を要したということです。

ブッシュファイヤーへの備え

このように一度火が付くと大変なことになってしまうので、日頃からの備えが大切になってきます。

近隣からの燃え移りを防ぐために、お互いの土地の境界線にファイヤーブレイクとして広めの道を整備したり、家や倉庫の周りの木を伐採して燃える物を除去したりします。雨樋に溜まった落ち葉を掃除するのもとても大事です。

また計画的な野焼きも重要です。先にある程度の土地を焼いておくことで、炎が攻めてきても燃やすものがなければ被害は最小限に抑えられます。この野焼きは5月から10月までは自由に行えますが、それ以外の期間は火事が懸念されるため自治体からの許可が必要です。

ブッシュファイヤー

乾期の11月から4月までは野焼きだけでなく、焚火やキャンプファイヤーのような野外で囲いのないような火は、キャンプ場でも個人宅であれ全て禁止されます。(コンロ使用ならばOK)

火気厳禁

そのうえ、乾燥が続き気温が33度以上の風の強い日にはファイヤーバンと言った火気厳禁令が自治体から出されることも。これが出た日には、屋外での炭火BBQや溶接や研磨のような火花が出るような作業、草木が生い茂った中を車両が走ることさえも一切禁止されます。

そのくらいオーストラリアはブッシュファイヤーに敏感なのです。

ブッシュファイヤーから2年経って

先にも書きましたが、ブッシュファイヤーによって壊れたフェンスやパイプ、地面などの修復はまだ完全に終わっていません。

ブッシュファイヤーが始まる前から異常な乾燥が続いており、その乾燥は2年半続き干ばつ被害にも遭っていたため全ての作業が難航しています。

しかし焼けてしまった自然は少しずつですが回復してきています。

ブッシュファイヤーから2年

こちらはブッシュファイヤー直後のものですが、まるで月面のような白と黒の世界。

ブッシュファイヤー直後

そしてこれが18ヶ月後の同じ角度からのもの。焼けた木は戻りませんが、新しい芽が伸び草も生えてきています。

ブッシュファイヤーから18ヶ月後

また、偶然にもブッシュファイヤー前と直後、2年後に同じ場所で撮影したものがありました。

ブッシュファイヤー前の左上の大きな木は、下2枚の真ん中の木になります。

ブッシュファイヤー比較

固有植物の中には炎に焼かれることで種の入っている実が弾けるものもあり、こうやって新しい生命が誕生することもあります。

最後に

我が家の場合は敷地の3分の2が燃えてしまったので、ある意味この先数年は燃える物がほとんどないので比較的安全です。とは言え、日頃からファイヤーブレイクや家回りの整備、ファイヤファイターの点検をしているのでいつでも準備は出来ています。

オーストラリアの田舎に住んでいると、夏はいつ起こってもおかしくないブッシュファイヤーと気持ちは隣り合わせの生活なのです。

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