岐阜県西部にある大垣市は、松尾芭蕉が『奥の細道』で最後にたどり着いた土地。水の都としても知られていて、街のあちこちにひんやり冷たい井戸水が湧き出ています。そんな大垣ならではの銘菓が、井戸水で冷やして楽しむ「水まんじゅう」。和菓子店などでさまざまな「水まんじゅう」が販売されていて、湧水の町ならではの名物となっています。

涼し気な湧き水をいたるところで見かける大垣市

涼し気な湧き水をいたるところで見かける大垣市
駅南側に昔ながらの商店街が広がっている大垣駅。街を歩けば、水門川が流れ、神社の境内や商店街の一角など、あちこちに井戸水が湧き出ているのを見つけることができます。かつては各家庭に井戸があるほど水が豊富だったとか。

今では少なくなってしまいましたが、湧き出るように自噴する井戸もあり、地元の人々が水を汲みに訪れるほど。そんな美味しい水に恵まれた大垣は城下町だったという歴史もあり、多くの和菓子店が軒を連ねる街でもあります。

店の前に水槽が置かれた、大垣駅前「金蝶園総本家本店」

店の前に水槽が置かれた、大垣駅前「金蝶園総本家本店」
和菓子の街、大垣で200年以上の歴史を持つ老舗として知られているのが「金蝶園総本家本店」。店先には井戸水が流れ出る屋台があり、水まんじゅうが気持ちよさそうに冷やされています。

創業寛政10年というお店ですが、伝統を守りながらも新しい菓子作りにも取り組んでいて、水まんじゅうも抹茶味やコーヒー味などさまざまな味を創作。水まんじゅうの販売は3月末~10月上旬までですが、「杏餡」や「桃餡」など果実を使った月替わりの水まんじゅうを楽しむことができ、季節を感じることができます。


「水まんじゅう3個セット」(600円)
お店にはイートインスペースがあり、水まんじゅうとお茶のセットを味わうことができます。こし餡、抹茶、季節餡の3種類の盛り合わせになったセットがおすすめです。

「金蝶園総本家本店」では、何より出来立てにこだわっていて、葛とわらび粉を絶妙な配合で合わせた生地を作り置きせず、なくなってきたら随時製造。もっちり、ぷるんとした食感と透き通るような美しさの理由となっています。

水まんじゅうの歴史を知ることができる「餅惣」

水まんじゅうの歴史を知ることができる「餅惣」
「水まんじゅう」(3個350円)
大垣城のすぐ近くに店を構える「餅惣」は、餅屋として創業し150年以上になるお店。餅や赤飯が名物ですが、特注した大垣名産の木桝に入れて提供している「水まんじゅう」も人気です。

「水まんじゅうは、明治時代にはすでに地元の人々に親しまれていたようです。身近な素材と冷たい井戸水を利用した庶民の味でした」と教えてくれたのは店主の鳥居さん。お猪口を型にして生地を流し入れ、井戸舟と呼ばれる水槽で冷やしながら販売している様子は大垣の夏の風物詩だったとか。お店にはそんな当時の写真や印刷物などが展示されていて、水まんじゅうが人々に親しまれていたことを知ることができます。


「水まん氷」(写真左、600円)、「水まんじゅう ‐そら‐」(同右上、3個440円)、昭和初期のラベル(同右下)
またこちらの店では、夏にぴったりな、ちょっと趣向を凝らした水まんじゅうもあります。近所の人のためにすぐに冷たく食べられるよう、削った氷を入れて水まんじゅうを販売していたことがあり、それをヒントに生まれたのが「水まん氷」。

かき氷の中に入れて冷やしているので、水まんじゅうがもっちりみずみずしい食感に。葛の味を損なわないよう氷には自家製の白蜜を掛け、水まんじゅうが主役になったかき氷に仕上げています。ほかにも、マスカルポーネチーズを入れた半分青い水まんじゅうなど、アイデア溢れる品も。水まんじゅうはいずれも4月~9月上旬限定です。

大垣の水まんじゅう食べ比べできる限定商品も登場

大垣の水まんじゅう食べ比べできる限定商品も登場
毎年大垣駅前では、7月頭に「大垣菓子博」が開催されていて、さまざまなイベントで和菓子の街、大垣を盛り上げています。この日は市内の和菓子店がワイン味やスイカ柄など趣向を凝らした水まんじゅうを限定販売。さらにイベント会場では各店の定番水まんじゅうを詰め合わせた、食べ比べセットも登場します。お店によって大きさや餡の甘さ、葛生地の食感などが異なり、水まんじゅうの奥深さを知ることができますよ。毎年200個用意されますが、すぐに完売してしまうとか。今年の「大垣菓子博」は7/1に開催されます。

水まんじゅうは1個から販売しているお店も多く、持ち帰りもできますが、その場で出来たてが食べるのがおすすめ。大垣の冷たい水を一緒に口に含んでこそ、その醍醐味が味わえます。水音が響く街を散策しながら、ぜひ涼し気な夏の和菓子を楽しんでみてください。

※掲載の内容は、記事公開時点のものです。変更される場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。

文:田口真由美

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